「海亀政策」で打ち出した人材確保
中国の大学を訪問すると、日本と決定的に違うことはどの大学でも学長の年齢が若いことだ。大半の学長は、英語、日本語、ドイツ語、フランス語など流ちょうな外国語を話す人が多い。
10年ほど前までは、中国から外国に留学した優秀な人材は、そのまま留学先にとどまって帰国しない人がほとんどで、国の経費で留学しても戻ってこない研究者が多かった。中国の研究者は「これは違法行為だから、今さら帰国すると捕まると思っていた」と告白する。
そこで政府は「海亀政策」を打ち出した。海亀と同じように生まれ故郷に戻ってくるように呼び掛けたもので、戻ってきた人には違法性は不問にするという柔軟な政策だ。
それどころか戻れば待遇はもとより、専用住宅の用意、配偶者の仕事の面倒、子弟の教育の手配など、聞けば聞くほど至れり尽くせりの制度を作った。外国にいる中国人研究者の論文が「ネイチャー」や「サイエンス」などメジャーな科学ジャーナルに掲載されると、中国の政府機関や大学から好条件で戻ってくるよう誘われるようになる。
その政策に乗って、多くの人材が帰国した。欧米の研究スタイルを身につけ、欧米とネットワークを持った若々しい大学指導者が、中国の研究機関や大学に次々と出現していった。
「211プロジェクト」に選定された112大学の学長の年齢構成を調べたのが下のグラフである。中国は60歳以上の年代がたった10%しかいない。日本の国立大学の学長の年齢が55歳から59歳まではたった5%であり、残りの95%は60歳以上である。中国は日本の真逆である。

イギリスの大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ社(Quacquarelli Symonds :QS)」が2009年から毎年公表している大学の世界ランキングを見ると、中国の大学の躍進ぶりがよくわかる。

QS社の大学ランキングによれば、2015年に200位以内に入った日本の大学は8大学、中国は香港を含めると12大学がランクインしている。
QSランキングが始まった2004年では、トップ200にランクインした中国の大学はわずか5大学であり、日本は11大学あった。しかし、その後中国は躍進し、日本が停滞したことは明らかだ。
日本の大学は戦前から今まで、旧帝国大学が人材を供給する高等教育機関とみなされてきた。中国人の研究者から見ると「日本の大学は、旧帝大に投資が集中しており、大学の発展も競争も硬直化していて魅力に乏しい」(日本に留学した中国科学院の教授)という。